新里 栄勇(その他)
新里 栄勇
久米島町字上阿嘉
| 農家歴 | 22年(畜産) |
| 栽培面積 | 10ヘクタール(牧場) |
| 栽培品種 | 牛 |
台風の時は真っ暗で牛に会いにいけない。それが何よりもつらい。
もの静かで大げさに話さない人である。
まして自分を自慢することはない。
ところが、話を聞いていくうちに、達人は日本畜産界でも慣れた実績が認められている達人だった。会合が毎晩続く毎日。
長家は好きだが、手塩にかけた牛にはそれ以上の愛情を込める。今回は、牛にぞっこん惚れ込んだ達人が登場。
牛の言葉がわかるんですよ。
久米島の海を360度見渡せる標高309メートルの宇江城岳の中腹、字上阿嘉に今回の達人が経営する10ヘクタールの牧場があった。
周り一面の緑のじゅうたん。
遠くには、湖面きらめく白瀬ダムや上江洲ダム。
この素晴らしい環境で牛を育てている主は、新里栄勇さん(61歳)。
そして、頼もしい相方、奥さんの悦子さん(60歳)が寄り添う。
久米島区長会上阿嘉区長、久米島町和牛改良組合長、沖縄県家畜改良協会理事。
新里さんの名刺には肩書きがいくつも並ぶ。
毎晩と言っていいほど会合に出席している多忙な人である。
本土出張も少なくない。
この忙しいなかを好きな牛の成育に打ち込む。
一方、悦子さんも多忙な人。
牛の世話の合間を縫って、昼間は伝統の久米島紬を織る。
新里さんは、この道22年のベテランである。
父親の畜産業を継ぎ拡大させた。
一日じゅう牛の細かい動作に気を配り、かかりっきりで仕事に精を出す。
カラスの糞には特に気をつかう。
牧草にまぎれそれを食べた牛が下痢をする。
カラスの監視のためにも簡単に牛のそばを離れるわけにはいかない。
牧草の搬入、餌やり、畜舎の掃除、牛の散歩など、とにかく忙しい。
二人は意見の違いをはっきり言う仲。
牛のことを知り抜いている夫婦で、仕事をどんどん片づける名コンビ。
取材班が写真撮影の時である。
撮影のために見栄えのいい成牛と子牛を並べると、子牛がぐずり、その場で寝転んだ。
「父さん、やっぱりほんとの親子じゃないとダメですよ」
と悦子さんが寂しそうな顔でつぶやく。
栄勇さんも心配そうにうなずき、子牛に目をやる。
すぐに母牛を連れてきて本物の親子で撮影が成功した。
牛へのひとかたならぬ愛情を寄せる新里さん夫婦。
まさに人と牛の愛情牧場であった。
久米島の和牛は、最近、新里さんたちが中心となって改良を進めてきた成果が認められ、全国でも注目を浴びている。
久米島の大自然という環境と農家の人々の研究熱心さが実を結んでいるようだ。
3種ある牧草のうちの1種は久米島従来の牧草。
達人の牧場の土壌は島尻マージでPHは低いが、牧草の成育に対応できるようにした。
久米島和牛の中心は、子牛の生産。
セリ市は、2ヶ月に1度開催され、本土から訪れる購買者のために自慢の子牛を出荷する。
現在、新里さんは母牛40頭、育成牛6頭をかかえている。
子牛が生まれると7~10ヶ月の間に出荷する。
2~3年内には畜舎などの整備をし、母牛50頭の飼育を計画している。
繁殖用(育成用)の牛は、毎年6頭を維持していくことが目標。
この育成牛を母牛に育てていく。
新里さんは牛の調教術にも詳しい。
和牛のオリンピックと称される「全国和牛能力共進会」の第2回大会と第7回大会で2度も優等賞の栄冠に輝いている。
これは全国でも珍しい快挙。
家畜経営部門では独自のノウハウを発表。
九州大会で優勝、全国大会準優勝に輝く。
「全国和牛能力共進会」に出場させる牛は、万全の準備のために腕によりをかけて、1年前から調教を始める。
手綱さばきはもちろんだが、運動させる時の手綱の長さ、また体重が増えすぎないように微妙に牧草の量を調節する。
牛との繊細な心の通い合いがないと調教はできない。
1年かけて、さまざまな調教をしているうちに、牛に情が移り、牛が何を考えているのかわかるようになるという。
「牛の言葉がなんとなくわかるんですよ」
優等賞をとった「はづき号」の手綱をさばきながら新里さんが牛に優しい眼差しを送った。

